20世紀を生き抜くための「心」・「技」・「体」その37

はじめに
「語録」追録
「技」平野拓也著「大蔵省元調査官『酷税 驚愕のしくみ』」(1998.12.1初版:小学館文庫438円+税)より

「はじめに」

★ 大同生命保険相互会社社長の宮戸直輝氏より同社成長のきっかけについての話を聞きました。それによれば、他社と同じ養老保険から掛け捨て保険に特化したのが昭和46年。死亡保険金5000万円、災害割り増し5000万円(事故で死亡すれば合計1億円)という大型保障の認可をとり、法人会と提携したところ爆発的に売れ、社員の給料も毎月のように昇給があったそうです(それまでの上限は3000万円でした)。保険会社の健全度の指標とされるソルベンシー・マージン比率は他社に比べ突出しており、スタンダード&プアーズからA+の格付けをされています。他の保険会社も同じ料率だったのだから突出したのは企業努力ということになりますが、同社が掛け捨て保険に特化することによって死亡事故の発生が少なくて済んだことによる利益を他社よりも多く受けた、といえるのではないでしょうか。ではこれからも優良企業か、といえば、そうであるとはいいきれません。例えば食品として許可されていたものに新たな毒性が見つかり人がバタバタ死ぬとか、治療法の見つからない病気が蔓延するとか、大規模な災害が発生して人が死亡したり入院患者が増えるとかいうことになれば保険金の支払いが急増して責任準備金が足りなくなって、一気に健全度が下がります。あるいは現行の保険料率設定が保険事故発生実績に比べ高めに設定されすぎているから割高の保険料を引き下げろ、という外圧がかかるかもしれません。他より秀でた強みはそれをささえる諸条件が変われば自らを滅ぼす致命的な弱点になるかもしれません。体が大きくて強そうなゾウは自らの重みで骨折する危険を抱えています。弱肉強食の強者のイメージのライオンは肉食獣であるために年とって獲物が捕れなくなったら餓死するしかありません。強いと思われたものが実はこんな弱点を抱えている。そういう多面的な見方をしながら変化に対応していくことがこれからの時代に求められている、そんなな気がします。
 日下公人氏の著作に「一問に百答」という本があります(1999.3.4第1版:PHP研究所)。64の問題に対して「こういう考え方がある。逆にこういう見方もできる」といくつもの考えを示しながら結論を導き出しており発想の豊かさに感心させられます。そのなかで詰め碁は学校教育と同じで答がわかっているから気楽であるが実戦には答が一つとは限らない。答があるのかないのか不明で、答らしきものを自分で何通りも考えながら解いていくので途中の悩みも大きい。「詰め碁」の問題集ではない「実戦」書である本書の一部を資料として同封します。

「語録」追録

★ 「我々がものを数えるときは、10万、20万、30万、40万というように10万きざみの等差級数で 数えます。ところが営業のMの場合は10万、20万、40万、80万というように倍、そのまた倍と  等比級数で数えます」
 *等比級数の倍数は2倍とは限らない。倍数が10であれば10万、100万、1000万、1億と一気に大きな数字になってくる(経済アナリストの藤原直哉氏セミナーテープに出てくる言葉)。
 「支払手形を切って領収証をもらうと、支払いが済んだ気になってしまいますが、何ヶ月か先へ支払いを延ばしただけで払ったわけではない。それを勘違いしてお金に余裕ができたと使ってしまうから、後々資金繰りで苦労することになるんです」
 *あるショッピングセンターに売場スペースを大きくとったキーテナントのスーパーAと売場スペースの小さいスーパーBが競合した。Bはいずれ撤退するというのが大方の予想だったが、固定客をガッチリつかみ健闘した。その原因はBが発行したBカードにあった。買い物に出かけて支払いをするときにBカードをすすめられ、お支払いは来月でいいですよと言われる。Bカードで支払いを済ませると今日買い物でなくなる予定だったお金がまだ財布のなかにある。ちょっとリッチな気分になって予定外の外食や買い物までして使ってしまう。翌月カード代金の支払いがくるから予定外の支出をした分お金が足りなくなり、お金がなくても買い物のできるBカードで買い物をする。こうしてスーパーBの固定客が増えていく。これは船井総研の三上氏のセミナーに出てくるレポートである。もっとも売上代金を手形でもらう企業にはチト難しい。
 「逃げて5秒、組んで3秒」
 *オリンピック選手だった柔道の山下泰裕氏と高校の大会で対戦した選手の言葉。あっという間につかまって投げとばされた。それぐらい強かった(この話、体育会系の友人からのまた聞きである)。
「相次ぐ不祥事
 昔ー謝って済むなら警察はいらん
 今ー謝って済ませる警察はいらん  (名古屋・まろ)」 
 *平成11年11月の中日新聞(夕刊)3ミリコント月刊賞の作品。
 「おい、タバコ、といってタバコだけもってくるのでは子供の使いです。ライターと灰皿をいっしょに持ってきたら女房として合格です」
 *言われたことしかできない部下に「社長になったつもりで社長だったらどうするかを考えて行動しろ」とハッパをかける経営者がいるが、こういう例え話にした方がわかりやすい、と思う。
 「自社の商品が好きでない人や、誇りを持てない人は営業をやってはいけません」

 「いまでも最初に営業をした○○の○○さんのことは覚えています」
 
 「苦しいときに助けていただいた○○信用金庫の○○さんのおかげでいまの自分があります。だから、担当が替わっても、支店が変わっても、退職されてもお中元とお歳暮は贈らせていただいています。そんな方々が数えてみると10人以上います」

 「ツキに感謝していると、不思議なもので感謝するようなことが次から次へと起こってきます」

 「お客さんに喜んでもらって、その上お金までもらえる・・・。○○ぐらい“いい商売(仕事)”はない」
 *お客さんが喜んでいるのを見ると仕事で苦労したことを忘れて「この仕事をしていて良かった」という感動が残る。この感動が○○という商売(仕事)を選んだ(続けていく)きっかけになった、という人は商売(仕事)に誇りを持っている。もっとも「いい仕事をしたい」という想いが強すぎて採算を度外視してしまうと自己満足におちいり商売ではなくなってしまう。

「技」平野拓也著「大蔵省元調査官『酷税 驚愕のしくみ』」(1998.12.1初版:小学館文庫438円+税)

★a.著者は昭和10年生まれ。高校卒業後大阪税関入関、在職期間中に密輸・脱税事件検挙などにより大蔵大臣表彰などの功績を挙げ、平成7年退職。この間、昭和63年大阪外国語大学フランス語科入学、平成5年総代で卒業、傍ら労働組合役員を務め労働・税関事情調査で訪欧するなどしている。本書は文庫書き下ろしである。

★b.日本は所得税の課税最低限が諸外国に比べ高く設定されている。では、低所得者の味方か、といえばそうではない。例えば東京の消費者はニューヨークの1.41倍の価格で食料品を購入している。衣服は1.33倍家賃は1.55倍である(経済企画庁発表による97年の内外価格差)。日本の食料品購入総額は推定76兆円で、ニューヨークと同じ価格なら54兆円ほどで済む計算になる。差引22兆円は関税や課徴金、政府による規制と保護政策などによって引き上げられている。この構造的なしくみを税金による所得配分機能になぞらえて隠れた税金の所得配分と命名している。

★c.大蔵省が徴税する関税は約1兆円であるが、消費者はこれとは別に第二関税を1兆円徴収されている。アメリカなど諸外国では輸入する貨物は本船が航行中に税関に輸入申告し、90数%の貨物は船が港に入港すると同時に引き取られる。ところが日本では輸入貨物をいったん税関指定の倉庫等(保税地域)に搬入することが法律で義務づけられている。このしくみにより輸入業者は第二関税とでも呼ぶべき倉庫料の負担を強いられるが最終的には価格に上乗せされて消費者が負担することになる(p25-p32)。

★d.所得税の最高税率を引き下げることは金持ち優遇になるという批判がある。しかし、日本の税制は金持ちになりたい人を妨げる効果はあるものの本当の金持ちになって悠々と株式配当や利子所得で暮らしている人にはきわめて優しい制度となっている。金持ちになろうとほかの人以上に働いて稼いだ所得には最高税率50%(国税37%、地方税13%)の税金がかかるのに、資産所得である利子所得は20%の分離課税で済んでしまう。逆に税金のかからない低所得者層にも同じ税率で課税される。金持ち優遇で問題とすべきは最高税率ではなくて分離課税である(p68-p69)。

★e.なぜ大蔵省が利子所得の分離課税制度を温存したかといえば、税金は徴収しやすきから徴収し、しかも徴収コストをおさえる、という税金哲学(理念)がその背景にある(その裏返しの「取りにくい所からは取らない」という徴税理念である)。たとえば所得税や相続税は沢山あるところから諸外国より高い税率で徴収する。源泉徴収制度によって所得税納税者の約80%にかかる徴税コストを民間事業者に押しつける(かつて平野氏が試算したときには2500億円になった)。しかも、勤労者が納税の痛みを感じにくくなり、税金の使途への関心も薄くなって為政者の思い通りに税金をむだ遣いできる。もし、利子所得を分離課税から総合課税にしたらすべての納税者の所得を把握しなければならなくなり、徴税コストがはね上がり、 税金の使途への監視もきびしくなるから具合が悪い(p70、p21-p22、p184-p185)。

★f.日本はGDPの6.9%(他の先進諸国の3倍)の公共事業を行い、GDPの5%ほどをむだ遣いしながら毎年その分だけ国・地方の借金が増えている。公共事業投資の理由の一つとして戦争により国土が廃墟と化したのでその復興のために必要だという理論が唱えられた。1970年当時日本4.9%、西ドイツ4.4%とほぼ同じような公共投資が行われた。それから30年、ドイツは2%まで減少したが日本では下がらず、むしろ90年代に上昇し363兆円の公共事業費が使われている。ことに90年代の8年間に220兆円が注ぎ込まれているが、景気対策や雇用確保の特効薬として実施され、社会資本の整備という公共投資本来の目的がなおざりにされている(p132、p39-p43)。

★g.アメリカでは97年春の世論調査で「権力をかさにきた納税者いじめがある」という回答が7割もあったことから内国歳入庁(IRS)の改革がすすんだ。IRSを管理する最高意志決定機関として「内国歳入庁監視委員会」を設置し財務長官から権限を委譲することになった。財務長官は9人の委員の一人として会議には出席できるが民間から6人の登用が義務づけられている。日本の国税庁長官にあたる委員会の委員長には情報・サービス会社のロソッティ社長が起用される。また、これまで脱税容疑を否認する立証責任を納税者に負わせていた点を改め、原則として歳入庁が立証責任を負うことになり、納税者あての文書に担当職員の名前、連絡先を明記することが義務づけられた。この改革で歳入庁の税収は130億ドル減少 する見通しであるという(p149-p152)。