YTAメモ《語録抜粋》編

永六輔著「大往生」岩波新書1994.3.22第1版より
永六輔著「二度目の大往生」岩波新書1995.10.20第1版より

★ 前々回お送りした永六輔氏の「語録《芸人・職人・商人》」は楽しめましたでしょうか。今回は「大往生」「二度目の大往生」の中から私が気に入った言葉を拾い出してみました。 前回の3冊が職業を通じて「生きざま」を語っているのに対し、「老」「病」「死」を通じて「生き方」を語っているように思います。肩のこらない、気軽な読み物ですので、ぜひ、永氏の著書を直接ご覧いただくことをお薦めします。
 また、検索するための引用ぺ-ジはまとめて掲げました。

永六輔著「大往生」岩波新書1994.3.22第1刷より:p3,p4,p5,p8,p9,p11,p12,p13,p14,p15,p16,p17,p18,p19,p27,p28,
p29,p30,p31,p33,p36,p42,p43,p45,p46,p47,p49,p50,p52,p54,p55,
p56,p57,p59,p60,p61,p62,p67,p68,p69,p70,p71,p72,p77,p79,p80,
p83,p85,p87,p93,p95,p96,p160,p161,p162,p164,p165,p166

★最初に川柳を読んでいただく。
病院関係者がつくった川柳であることを念頭において読んでいただきたい。

福祉より薬が生んだ長寿国
古稀という語が死語になる長寿国
無理矢理に生かされている薬漬け
ドクターは長者患者は長寿なり
百薬を飲み過ぎ万病で入院中
見舞客みんな医学の解説者
糖尿の話ではずむクラス会
人生は紙おむつから紙おむつ

★「ハゲになったり、白髪になったりして嘆くことはありません。ハゲたり、白くなったり するまで生きられたと思えばいいんです」

「90度、腰の曲がった婆さんが、仰向けに寝ました。ハイ、足は90度に立っているで しょうか?」

「煙草、酒、こんなにおいしいものをやめると………身体によくないよ」

 ☆「今はただ小便だけの道具かな」。これは円生師匠の句である。

[タフですねと言われるようになったら、身体に気をつけなさいよ」

「あの人はいい人だって言って歩くと、その人はいい人になる努力をするんですね。それ で、早死するんです」

★「歳をとったら女房の悪口を言っちゃいけません。ひたすら感謝する、これは愛情じゃあ りません、生きる智恵です」
 ☆下町の、さんざん道楽をした果ての頭がしみじみと言った言葉。この
  夫婦が喧嘩ばか りしていたことは町内でも有名だったが、いまは仲
  のよい老夫婦として評判である。 夫婦喧嘩というのは、それが理由
  で別れる場合もあるし、日常の暮らしに組み込んで 活力にしている
  場合もある。 結論として、最後に笑えればそれが幸福というものだ
  ろう。

★「身体の疲れたのは休めば治るけど、心の疲れたのは休んだからって治るものじゃないの よね」

★「まず義理とつきあい。これを捨てることで、健康を守っております」
☆友人で、義理とつきあいこそ大切だという人もいる。具体的にはパーティとか集会に 必ず参加するのが健康法だという。

★「これからは老人が増えるから、どうこうしなければいけないって……。老人が増えるこ とがいけねェことのように言う奴がいるでしよう。あァいう奴は、てめえが歳をとらな いと思っているのかねェ。ねェ、そう思いませんか?」

★「老人を預けに来た家族が週休2日制でさ、その老人を世話している俺たちが、なんで休 みがとれないんだよ!
 他人に親を押しつけやがって、面会に来て孝行面をするんじゃねェよ」

★「老人ホームはお洒落な二枚目のお爺さんを探しています。素敵なお爺さんがいるだけで、 お婆さんたちが、みんないいお婆さんになりますから」
☆九州の老人ホームで聞いた話。戦前、上海でピアノを弾いていたという粋な老人が入 所した。カンカン帽が似合い、いつも赤の細身の蝶ネクタイ、ステッキを指先でクル ッとまわすような人で、どのお婆さんにもレディとして対応する。この老人が園内を 散歩するようになったら、お婆さんたちも精一杯のお洒落をするようになった。「雑 巾みたいだったお婆さんたちが、少女のように愛くるしくなりましたがね、そのお爺 さんが亡くなったら、また、雑巾みたいになっちゃって」と園長が言っていた。
  ―というわけで、どこの老人ホームでも粋なお爺さんを探している。

★「老人ホームで栄養のバランスなんて意味がありません。好きなものが好きなだけ食べられるバイキングが喜ばれるんです」

★「90歳で元気なバアさんに、牛乳を飲むと長寿になるから、がまんして飲みなさいって 医者が言うんだってさ。
……バアさんは、この年になって今さら嫌いなものはいやだって言ってるんだよ」
☆こういうのを「余計なお世話」とも、「医者の思い上がり」ともいうのだ。平均寿命 を過ぎたら、好きなものだけ食べればいいのだ。日本人ってカロリー計算が好きです ネ。

★「どうして孫は可愛いんでしょう。いやな嫁から生まれたなんて信じられないくらい可愛 いですよ」

★「日本では福祉予算も、叙勲も、勲章も申請しなければくれません。つまり、欲しがった 奴が貰えるんです」
☆この話とは別だが、知っている下町の職人が叙勲の知らせを受けた。
 「ハイ、ありがとうっていっちゃなんだから、私ごときがもったいな
 いって、一応は 遠慮したんですよ。それでもっていったら、それじ
 ゃっていただくつもりが、最初の 遠慮で役人が帰っちゃったんです
 。……わたし、本当はいただきたいんですが、なん とかなりません
 かね」

★「この猫は人間だと七十歳とか、動物の年齢を人間にたとえたりするけど、あれ意味があ りますか?この人間は、猫だと何歳、なんて言わないものねェ」
☆動物の寿命もさることながら、人生50年という時代の感覚で年齢を数えてはいけな い、という説もある。医学の進歩も含めると、「7掛け」でちょうどというのだ。つ まり70歳は49歳で考えるべきだと。
  60歳は42歳。50歳は35歳。ウン、そうかもしれない。

★「動物なら、喰って寝て発情して歳とりゃいいんですからね。楽でいいなァ」

★「昔、お母さんにおむつを取りかえて貰ったように、お母さんのおむつが取りかえられる かい。老人介護って、そういうことだよ」
☆老人ホームで取材しているときに、園長が若い夫婦に言っていたのをそばで聞きなが ら、思わずメモしたことを覚えている。

★「人生ね、あてにしちゃいけません。あてになんぞするからガッカリしたり、悩んだりす るんです。あてにしちゃいけません。あてにしなきゃ、こんなもんだ、で済むじゃあり ませんか」

★「老人は誰かて、自分が老人だなんて思うてまへんよ」

★「90を越えてから考えるようになったんだけどね。「長寿」って言うでしょう。長く生 きりゃめでたいってのは、誰が決めたんですかね。寝たきり老人が多くなるだけでしょ う。「寿」なんてものじゃないよねェ」
 ☆寿命という言葉は、長く生きることがめでたいという前提に立つてい
 る。充実した人生がすごせないなら、「長寿」とか「寿命」といわず「
 長命」の方がいい。
   一仕事」できるかもしれないがそうでなければ出直してもらうしか
   ない。

★「子供叱るな/来た道だもの/年寄り笑うな/行く道だもの。
 来た道/行く道/二人旅/これから通る今日の道/通り直しのできぬ道」
☆犬山の寺の門前にあった掲示板から写した。これは妙好人の言葉として
 有名だ。

★「癌の告知の是非といいますが、告知してもいい人と、告知してはいけない人の問題で、是非で論じてはいけません」
☆さらに言えば、告知できる技術をもった医者が、告知されても受け入れ
 られる能力をもった患者とめぐり逢ったときだけに限られるべきだ。
 また、「告知」という言葉もどうかと思う。「宣告」とか「判決」に
 近い、優しさの ない用語である。しかも、日本の場合、患者当人より
 も、なぜか家族に告知する例が 圧倒的に多い。
  「そういうわけで、御当人に伝えますか?」 ―これは間違っていると
 思う。当人に 相談して、「御家族に伝えますか?」というべきだろう
 。そして「告知」の技術が幼稚な現実もある。宗教的な背景の有無は別
 にして、医者たるもの、心優しく現実に立ち向かう学習をしてほしい。
 告知に耐えられる患者。告知ができる医者。この両者の関係が成立しな
 いところで、するべきか、どうかと論議されているような気がする。

★「頭を使うから胃潰瘍になるんじゃありませんよ。
 頭の使い方が下手だから胃潰瘍になるんです」

★「身体がちょっとオカシイぐらいで医者に行ってはいけません、確かにい
 つもと違う、という自覚があってからで大丈夫です。今の診察技術だと
 、ちょっとオカシイを、とても オカシイにしてしまう危険の方が高い
 のです。人間ドックに行ってから急に体調が崩れるのは、そのせいです」

★「手術をしてるとわかるんですが、人間の肉は赤身なんです。それが、最近はトロが増えてます」

★「医者は危ない手術はしません。
 下手をして訴えられたりするよりは、様子を見ましょうといってる方が
 楽ですからね」

★「手術は勝負です。賭ける部分がないと腕もみがけません。
 だから患者にも賭けてほしいと思うんですけどね」
☆医者は科学者であると同時に、職人でもあるべきだ。「誤診をおそれて
 いては何もで きない」という本音も聞いた。そして、職人としての「
 腕」に対しても報酬を払うべ きだと思う。ただ治せばいいというもの
 じゃない。仕事としてもいい出来でなければ。

★「寝ているところを起こして、時間ですからって睡眠剤を飲ませるんだぞ。
凄い病院だろう」
 ☆この話を医者にしたら
  「そういうケースはありますが、それが乱暴だと思わないで下さい。
  寝ていても起こして睡眠剤を飲ませて、それでリズムをつくる場合が
  あります。素人の理解できないことっていろいろあるんです」
  ……でも、素人にわかるように説明する努力も足りないのではないだ
  ろうか。

★「人間ドックで若いって太鼓判を押されて、それで張りきってすぐ死んじゃう人が多いん だって」

★「医者は病気を治そうとはする。
 しかし大切なのは、病気を治すことではなくて病人を治すことなのだ」

★「煙草の害についていろいろ言う先生がいるけど、煙草の益についてはどうして何も言わ ないの?」
☆煙草はプカプカ、酒はガブガブ。それでいて長く生きる人がいるのに、
 禁酒禁煙で短命な人もいる。
 とりあえず、病気になつたら、同じ病気を経験した医者を選ぶべき。そ
 して、酒呑みは酒呑みの医者を、煙草喫みは煙草好きの医者を選ぶべき
 です。

★「喫煙率の一番高い職業は医者と看護婦なんですよ。それなのに病室を禁煙にするなんて ね」

★「薬が効かない時は医者に文句を言うべきですよ。
 効かないからって医者を替えちゃいけないんです。
 医者に文句をつけるのが大切なんです」
☆この言葉はなかよしの医者から聞いた。
 医者というのは、初対面の時と、なかよくなった時とでは、「建前」と
 「本音」ぐら いの差があるものだ。また、医者の愚痴を聞いてあげら
 れるようになれば、患者とし て一人前だという。

★「病気に効く薬はあります。身体に効く薬はありません」

★「西洋医学の薬で身体によいものはひとつもありません。副作用のない薬はないんですから」

★「しびれ方を説明して下さい。
 ピリピリですか? ジンジンですか?
 ズンズンですか? チカチカですか?
 ……違いますか……。じゃ、あなた言ってみて下さい」
 ☆言葉で表現できない痛みや辛さを、どのように医者に伝えれはいいの
  だろう。これも  診察時間の短さからくるパターンなのだ。

★「咳というのは自己防衛です。自分の身体にあわないものを拒否しているんです」

★「どうして外側から診るのが内科で、内側を診るのが外科なんですか」

★「漢方では毒をもつて毒を制することをしますが、この考えは西洋医学にはありません」

★「近代医学は200年、東洋医学は2000年。
 どっちを信用すればいいか、ヨーク考えた方がいいよ」
☆東洋医学と西洋医学は対立するべきではない。
  日本医師会と日本歯科医師会という二つの団体も、われわれ素人感覚 では理解できな い。町医者が激減し、総合病院、大学病院に頼るケー
 スが多くなった最近、特に痛感することである。大きな病院で歯科も漢
 方も共存している例が少ないのは御存知の通 りだ。 一日も早く、真の
 意味での総合治療を期待したい。                 
 いま、もっとも進歩している総合治療を行なっているのは国会で、議員
 会館の診療室では、東洋医学も併用されている。彼らはいつでも、自分
 に都合がょけれは法律を無視するのである。  

★「別れる淋しさ、生きてきた虚しさ。それに耐えれば、おだやかに死ねます」
☆言うだけなら簡単、そうは簡単に死ねないと思ってはいるが、上手に死
 ぬ人がいることも確かではある。歳のとり方も、死に方も、初心者ばか
 りでベテランはいない。あわてて宗教書や哲学書をひもといても間にあ
 わない……、と思っている。ドッコイ、間にあって鮮やかに 死んで見
 せる人もいる。

★「こうやって同窓会の度に物故者の黙祷をするのはいいけれど……
 何人までやるか、決めておこうよ。一人で黙祷なんていやだよ」

★「同世代の仲間が亡くなる度に、残り時間を考えますね。
 そうするとどうしてもあせります」

★「死にたいように死なせてあげたい。ホスピスの医者としてはそう考える
 のですがね。こういう死に方をしたいというイメージのない人ばかりな
 んです。生き方ばかりじゃ最後に役に立たないんですけどね」

★「80を過ぎたら、なんだか医者の扱いに手抜きが見えてくるよ、ウン。
 だって、死んだって文句の言えないトシだからね。
 87になったからね、ウン。病院で殺されたって、別に不思議じゃない
 よ、ウン。いいんだ、ウン」

★「お釈迦様は安らかに大往生ですよね。
 大勢の弟子や、動物にも囲まれて……釈迦涅槃図って、あの絵はおだや
 かでいい絵です。あんな死に方、いいなと思います。
 比べちゃいけませんけどね、キリストの死に方は痛そうでねェ」

★「遺体は1500度で焼くのが一番あがりがいいようで……
 金歯は800度で溶けて飛び散ります。はずしてからお焼きになりませ
 んと……」

★「長患いは、焼きあげた骨でわかります。背骨と、腰骨がもろくなっていますから」

★「この御骨が頚椎の二番目になるのですが、俗にいう喉仏でございます。
 御覧下さい、こちらからですと合掌している姿に見えます。
 ここに置かせていただいて、あとはお顔の形に並ばせます。ハイ、ここ
 は頭蓋骨の位置 になりまして……ここの御骨がここ……これがここ…
 …ハイ、蓋を閉めますのでお別れ のお祈りをどうぞ」

★「死んじゃったら遺族の勝手です。
 葬式は死んだ人のためにやるものじゃない。遺族のためにやるものです。
 だから、遺族の気の済むようにおやりなさいよ」
☆葬式について、セレモニー優先で演出されてしまうのは不快だ、という
 声をよく聞く。葬式をしないという遺言を守った遺族がいたが、そのあと一年中の弔問客の応対に疲  れはてたという。
 どういうかたちであれ、やってしまった方が楽だというのも事実だろう。でなければ、
 長谷川町子方式で、死を公表しないで、故人の遺志を通すかである。
 例えば、「献花お断り」と言っているのに、献花が来る。これを断るエネルギーとい  うのは大変なものである。こればかりはやってみなければわからないが、これを断固  として拒否する気力があるかどうか。相手の好意を無視するというのは、何よりも疲れる仕事である。

★「葬式で、赤ちゃんの声が聞こえると、何だかホッとするんですよ。
 子供は葬式に重要です」

★「死ぬ前になりますと、人間は炭酸ガスが増えるんです。この炭酸ガスに麻酔性がありますから、最後はそれほど苦しまずに終わるようにできているんです」

★「姑だって最後は嫁の世話になる、このことをわからせれば、あとは嫁の天下です」
☆日本のデータでは、最後の介護は8割近くが嫁ということになっている
 。嫁の負担がいかに大きいかということなのだが、姑にもそこを逆に計
 算している人がいる。
 「あたしゃ、最後は呆けて、いやというほど嫁に世話をかけてやる」

★「病院で死ぬか、在宅で死ぬかじやありません、誰に看取られて死ぬかなんです」

★「御臨終です……これが上手に言える医者になりたいと思います。
 昔は、心臓がとまって、呼吸がとまって、瞳孔が開けばいいんですが、
 今は心電図ですからね。死んでいても、何かの拍子に動く時があるの
 で困ります。だから上手にスウィッチを切っておいて……ハイ」

★「遺言状を書く勇気もなくて、よく死ねるネ」
 ☆弁護士会も、税理士会も、遺言状を書くようにすすめている。アメリ
 カの企業の責任  者は85パーセントが遺言状を書き、日本では85
 パーセントが無関心だという。良  い葬式のためにも「故人の遺志」
 は重要であり、その証拠が遺言状なのだ。遺言状を書いてみると、自分
 が何を大切に生きているかも確認できるから、この本を読み終わったら
 すぐにでも!

★「長生きしようってグループがありましてね。会員は年間1万円ずつ払うんです。別に何もなくて、ただ払い続けるだけ。で、最後まで生き残った人が全額もらえるんだって!」

★「昔はね、呆けるほど長く生きなかったの」

★永.「スパゲティって何ですか?」と訊ねたら、「延命措置のことです」
 と。 最終的な延命措置の段階で、からだにどれぐらいの管が入って「
 スパゲティ」みたいに なっちゃうのか、教えていただけますか。
山崎 まず、点滴です。それから、酸素吸入器。自分で呼吸できない人の
 場合には、喉を 切開してそこに人工呼吸器の管が入ります。それに、
 おしっこを調べるための管が入りますね。また、心臓の状態を調べる管
 もあります。つまり、栄養を管理する管、呼吸を管理する管、排泄を管
 理する管、心臓を管理する管と、4種類の管がからだに入るわけです、
 最低でも。
永 最低で!                     、
山崎 心電図のモニターだけでセンサーを3ヵ所に置きますから、3本の
 コードが出てきます。点滴は左右両方から入れれば2本の管がぶらさが
 るわけで……
永 つまり、そのような「スパゲティ」とは、当人がもはや生きる機能を
 失い、代わって 機械が無理に生かしているという状態ですね。
山崎 いや、必ずしもそうではありません。同じ状況は、大きな手術をし
 た直後の治って いく患者さんの場合にもあることですから。
 永 あっ、そうか。明るい「スパゲティ」もあるんだ。

山崎 患者さんがご自身の死を正確に意識した時点から以降、医療が果た
 すべき役割はあまりないんじゃないか、とぼくは思います。というより
 、そのとき医者が医療を超えたひとりの人格として関わっていくこと
 で初めて、患者さんとの間に心の通うコミュニケーションが成り立つ
 可能性があるのでしょう。去年の7月にぼくが看取った人がいます。ま
 だ35歳の若い女性でしたが、乳ガンの再発を繰り返していたので、
 すでにかなり最終的な段階にありました。本人も呼吸困難の状態で酸素
 を吸いながら、ある程度の自覚は持っていたようです。しかし、現実に
 亡くなる2日前までは、ひょっとしたら治るかもしれないという希望も
 持っていて、ぼくが回診に行っても、「退院したら」と将来の話もして
 いたんです。ところが、亡くなる前日の朝から突然、めそめそ泣き始め
 て……。ちょうど土曜日で、ぼくがある会合のため 病院にいなかった
 ものだから、病棟から会合の場所まで電話があって、様子がおかしいと
 言うんです。どうやら自分の死期を悟って、悲しくなってしまったらし
 い。その彼女が、夕方までには泣き止み、落ち着きを取り戻しまして、
 きちんと皆さんにお別れをしたいと言い出したらしいんですね。ところ
 が、周囲のほうがそれをなかなか受け入れようとしない。彼女が「お世
 話になりました」と告げても、「何を言う。気を確かに持たなきゃダメ
 じゃないか」といったふうに受け付けない。ところが、あとから駆けつ
 けたぼくは、彼女から「先生、お世話になりました」と言われたとき、
 その言葉を受け入れちゃったんですね。家族や知人の見ている前で。「
 病気を治してあげられなくてすまなかったね」と答えたら、「いいえ、
 そんなことはありません。病院職員の友達と一緒に外出したりもできて
 、楽しい思い出になりました」と。患者さんが自分の間近な死を感じて
 、そのことをまわりに告げ、医者がそれを受け入れたという事実がきっ
 かけになって、そこで彼女は改めて、家族や知人のひとりひとりにお別
 れとお礼の挨拶をしたんです。「また天国でお目にかかりましょう」っ
 て。周囲もそれを自然に受け入れました。最後に「先生、疲れたから眠
 らせてください」と彼女に頼まれて、ぼくは薬を使いました。その翌日
 に彼女は亡くなったのです。もし、あのとき、ぼくが偽って励まし続け
 ていたとしたら、彼女はその生涯の最期の瞬間に、家族や知人に大切な
 メッセージを伝える機会を逸していたかもしれませんね。

永六輔著「二度目の大往生」岩波新書1995.10.20第1刷より
:p7,p8,p11,p14,p17,p18,p19,p20,p21,p23,p24,p25,p26,p27,p28,p29,
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★「多くの人を救った宗教ってあるんですか。多くの人を傷つけて、傷をなめあっている宗教ばかりのような気がします」

★「宗教の果たしてきた役割は、人を救うことではなくて、救われたい状況をつくることだったんじゃありませんか」

★「布施はいただくものであって、取りあげるものではありません。
 出家は働かないかわりに人間の生き方を考えるために修行することで、
 家出して働くの は出家とはいいません。働かないから布施で生きるの
 です」

★「天皇が神だと信じ、釈迦が生まれてすぐ歩いたと信じ、キリストの母が
 処女だと信じ、そして宗教が生まれます。
 ……教祖が宙に浮くと信じるのも入れましょうか」

★「呆けてもいいんですけど、弱ってから呆けてほしいですね。元気で呆けてるっていうのが、いちばん世話がやけるんですよ」

★「常に何かに怒っている人は呆けませんが、自分に怒っているようでしたら呆けます」

★「おいくつですか。
 62……。
 私は69なんです。シルバーシート、ゆずって下さい」

★「昨日、何を食べたか、覚えていますか?
 覚えていない?
 じゃあ、食べたことを覚えていますか?
 食べたか食べなかったか、思い出せない人は診察します」

★「冷蔵庫をあける、
 あけてから、何を出すんだったか、わからないってこと、あるでしょう?
 ネ、あるんですよ」

★「大事なのは思い出すことじゃないんです。思い出そうとする努力が必要なの」

★「老人ホームで障害の疑似体験をしているところがあるんだけど、みんな
 面白がってやっ てるんだ。今日は見えない日って決めると、その日の
 リーダーは盲人がなったりして……。私が行った日は全員が右腕を三角
 巾で吊っていてさ。 これ、老人ホームでなくても必要だと思うよ」

★「死体を沈めるのは、布団巻きが一番です。
 おもりをつけて沈めるのは、いつか浮かんでくるんですよ。
 布団だと水を吸って、きちんと巻いてさえあれば浮いてきません」

★「妾というものは、妻が死んだからって、その後に乗り込むもんじゃあり
 ません。順番を待っているような女がいるから、世間に馬鹿にされるん
 です」

★「二号もいいものだ。
 一流の二号となりゃ、二流の一号なんぞ、足元にも及はねェ」

★「かみさんがいいと、男は駄目になるね。妾がいい男は、出世するよ」

★「10代の夫婦はセックスで夫婦です。20代になると愛で夫婦。
 30代になると努力して夫婦。40代になると我慢の夫婦。
 50代になると諦めの夫婦。60代になると、お互い感謝で夫婦。
 やっと夫婦です」

★「親父が死んだ年になりました。
 ウン、親父は若くて死んだなァと、それが実感ですね」

★「生涯教育ってのは、生涯かけて若い連中を教育するってことですよ。
 生涯を教育されちゃたまりませんもの」

★「厚生省の老人問題担当が30歳そこそこの役人というのは、何とかなり ませんかねェ。 停年後も老人問題に取り組むという役人がいなきゃい けませんよ。老人問題なんですから」

★「ちょいと、いま、何て言ったの?あなたの幸せと健康のために3分下さ い?笑わせちゃいけないよ。この世で私くらい幸せで健康な人間はいな いんだよ!」

☆「あなたの幸せと健康のために3分下さい」というようなことを言って
 街で語りか けてくる若者に、おばさんがハッキリと言った胸のすく啖
 呵だった。 僕は「10分あげるから珈琲くらい御馳走しろ」という。
 まだ御馳走してもらったことはない。

★「女は人間じゃありません。人間は男が人間、女は大自然だと思った方が
 理解できます。そう思いませんか。女は大自然です。われわれ人間は大
 自然には勝てません」

☆産室に入って出産に立ちあう夫が急増しているが、同時に男であること
 の自信を失ってしまう若い夫が多いそうだ。 やっぱり、男は病院の廊
 下でオロオロしている方がいいと、僕は思う。

★「産み落とすというぐらいで、しゃがんで出産するのがー番楽なんですよ。
 寝かせて出産させるのは、あれは医者が取り上げやすいだけで、産婦の
 都合じゃなくて、医者の都合なんですね」

★「赤ちゃんが立って歩こうとするのよ。わが子が最初の一歩を踏み出す瞬
 間よ。こんな感動的な場面を一人で見ちゃいけない。出産にも立ち会っ
 た夫と二人で感動をわ けあいたい!そう思ったときには、歩いちゃダ
 メって、子どもを突き倒していたのよ!」

★「人間は3歳までに一生分の親孝行をしてますよ。
 赤ちゃんの可愛らしさとはそういうものです。
 それ以上の期待を子どもにしちゃァいけませんよ」
「お腹のなかでは私が育てたのよ。外に出たらアンタが育てるのは当たり前じゃない」

★「嫁が憎いからね、最後は呆けて世話をやかせてやろうと思っていたのよォ!そしたら嫁が、私を呆け保険にいれちゃったのよォ!」

★「清貧なんて気取っていられません。貧すりゃ鈍するです」

「豊かさを超えている貧しさって、あるんだよなァ」

「貧乏ならいいのよ。貧乏は恥ずかしいことじゃない。
 でもね、貧乏臭いのはいやァね」

「困ったときはおいで、といわれていたんだよ。
 だからサ、困ったからサ、行ったんだよ。
 そしたらね、考え方が甘いって叱るんだよ。
 そういうことなのかい? 困ったらおいでということは……」

★「障害だと思う人と、その障害を個性だと思う人で、人生は大きく変わりますね」

★「老人よ!立ち上がれ!若者に席をゆずってやろう」

★「〈つらい〉とか、〈悲しい〉とか、〈痛い〉というのは何とかできるんです。いちばん やっかいなのはくむなしい〉ということ」

☆自分が誰かの役に立っているという自信のある人は絶対にむなしくなら
 ない。「むなしさ」を感じない暮らしというのが、充実した暮らしだ。

★「病院に来る患者3分の1、多いときは半分近くが、薬局の薬のんで、ゆ
 っくり寝てれ  ば治るんです。そういう患者を相手にするから、病院
 が混むんです。多いんですよ、ただの寝不足で疲れている人が……」

★「病院に来ると血圧が上がる方がいますが、白衣血圧症といいます」

★「病人を治さないで金をとる医者は、同じ職人として許せねェね。
 そうでしょ、私は治せなかったら謝って、お代はいただきませんよ」

★「テレビドラマの病院の場面でよくあるんですが、べッドの患者を運ぶ時
 に、頭が先になっていることが多い。あれは死者の運び方です」

★「これもテレビドラマであった例ですけどね、べッドのそばの心電図のモ
 ニターが動いて いるのに、患者の脈をみる医者がいます。脈はモニタ
 ーに表示されているんです。僕のような暇な医者がテレビを見ているぞ
 、ってスタッフに伝えて下さい」

★「死因ですけどね。ホントのところは病院のなかの派閥によります」

  ☆たらい回しは役所の窓ロにかぎらない。
   「あの医者にみてもらったなら、私はみない」、そう断言した医者
   もいた。
   「医は算術」と認めた医者も。

★「この薬を飲んで下さい。
 病気にはあまり効かないんですが、病院の経営にとても効くんです。
 ……冗談ですよ」

★「俺よ、ペースメーカーを埋め込んであるからさ、ネ、死んじゃっても、
 心臓はドキドキ しているわけよ、ネ。
 医者がびっくりしないように、ちゃんと報告しろって言われてさ」

★「タバコを吸う人がドンドン減っています。
 だから肺癌がドンドン減っているかというと、そういうものじゃありま
 せん」

★「タバコを止めて肥る人がいますが……。
 タバコの害と肥る害とでは、肥る方が短命だそうです」

★「医者がね、一切、酒を飲むなっていうんだよ、アルコールはすべて駄目
 だって!たしか、そういったような気がするよ。……俺、酔ってたから」

★「無理させておいてよ、無理するなよっていう奴、いるよ」

★「エイズもそうですが、ウイルスに手を焼いているのが現実ですよね。
 困ったものが暴れているという考え方はやめて、ウイルスが人間に逆襲
 してきたと考えた方が対応がハッキリすると思いますね」

★「私は薬剤師として、新薬を使ったことはありません。
 新薬は即効性を追い過ぎます。ゆっくり効けばいいんです」

★「汚い。きつい。危険。結婚できない。休暇がとれない。給料安い。子ど
 も産めない。薬 漬け。いくつありました?看護婦の8Kなんですけど」

★「看護婦不足は将来ますます深刻です。思いきって、東南アジアの女性た
 ちに公費で看護学校に留学してもらって、日本語と技 術を身につけて
 3年間は日本の病院で働き、そして母国にもどってその技術を生かして
 もらう。……これしかありません」

★「結婚するんで看護婦を退職しましたの。まァ、ビックリ。主婦とか、母
 親って、天国で暮らしているみたいで……」

★「病院のサービスをいろいろ言う人がいますけどね。
 居心地が悪いからこそ、早く退院したいという気持ちが湧いてくるんで
 すよ」

★「誤診で飲まされた薬の副作用が死因です。よくよく運の悪い人でしたねェ」

★「病気というのは身体に詳しいですね。
 どこに転移するかなんて、医者が考える先をいってますよ」

★「遺書は自殺する人が書くものです。あなたが書くのは遺言状です」

★「こころよく我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ」
 ☆この石川啄木の歌を大切にしている老人と逢った。
  これは私のお経です、毎日唱えています、と言った。

★「広島の場合、原爆で亡くなった10人に1人の割合で、朝鮮半島から強
 制労働に連れて 来られた人たちがいます。10人に1人ですよ!10
 人に1人!」
☆NHKの番組で紹介された広島の新しいデータにびっくりした。
さらに新しい事実として知ったのは、特攻隊員の母の自殺の多さであり、しかも体 当たりする息子に未練が残らないように、先に死んでいる例があることだった。

そして、この場合、遺族として認められない。

★「虐殺っていうのは、どういう風に殺すと虐殺っていうの?
 南京大虐殺っていうけど、広島大虐殺とか、長崎大虐殺っていわないの
 はどうして?赤ちゃんがたくさん飢えて死ぬのは虐殺じゃないの?」

★「ひたむきに生きている国では、死ぬなんて、問題にも話題にもなりませ
 ん」

★「死について、なんのかんのと言っている国は天下泰平なんですよ」

★「慰霊の行事をするということは、霊の存在を信じているということです。
 国家行事で慰霊祭をするということは、霊の存在を認める国家でしょう。
 そのわりに、アジアの恨念を認めないのは奇妙ですよね」

★「不運にも事故で死ぬ場合、そういっちゃなんですが、航空会社の事故が
 不幸中の幸いなんですよ。
 同じ事故でも、乗物で金額が違いますからね。そのことも考えて旅をし
 なさいよ」

★「朝鮮半島は儒教の国ですからね、悲しみを態度で表わす。
 それで位くんです。泣き女というプロがいるのも、ひたすら泣くためで
 す。兄弟で親が死んだりした時は比較されますからね、泣き方で親孝行
 が決まります。アイゴー、アイゴー。
 泣いた方が勝ちです。泣かないとあとで何を言われるかわかりませんか
 ら」

★「死ぬと決まりゃニヒルにもなる。
 ニヒルになってもいいから、ヤケになっちゃいけません」

★「人間は二度死にます。まず死んだ時。それから忘れられた時」

★「死ぬのは淋しいっていったらさ、
 医者があの世には先に行っている御主人が待っていますっていうんだよ。
 私ァ、あの亭主とはニ度と逢いたくないんだ」

★「生まれて死ぬと思わないで、死んで生まれたんだと思いなさい」

★「人間、息を引きとっても、しばらくは耳が聞こえているんです。
 だから通夜で偲んであげるんです。ちゃんと聞いているそうですよ」
☆ホントかなと思うけど、ホントだったら通夜で故人の悪口を言わない方がいい。

★「脳死後も精子は生きているんですよね。
 だから、死体からとった精子で受精させるのは可能です。
 脳じゃなくて、精子が死んだ時が本当の死じゃないでしょうか」

★「お墓にお菓子だの、果物を供えるのはやめましょう。掃除が大変です。
 米粒少々、これが一番です。チャンと小鳥が食べてくれます。
 それが供養というものです」

★「大切な人の墓に供える花は、自分で育てた花にしていますの」

☆酒好きだったからと、墓石に酒をかける人がいるが、これは石を傷める のでやめた方がいい、と石屋さんが言っていた。

★「あなた、悲しいだろうが、これでいいんだ。
 いいかい、これが、あなたが死んで、年寄りが残ったりしてみろ、一人
 娘を先に逝かせた老人、これは他人が慰められるものじゃない。
 しかし、父親を亡くした娘さん、これは物の順序だ。これが世の中とい
 うもんだ。 寂しかったら私のところに遊びにいらっしゃい!いや、い
 い仏になった」

☆藍染めの名手の片野元彦さんが亡くなられたとき、岡山から葬儀に駆けつけたとい  う老人が、遺された娘さんに言ったことば。
僕はこの老人こそ、名僧の資格があると感動した。

★「ときどきは亭主の骨をかきまわしてやってます」

☆住井すゑさんのことば。ご主人の墓をつくらず、書斎の箪笥のなかに遺骨をしまっている。
  「好きな男の骨なんだもの。地下に埋めるのは忍びないですよ。一番
  いいところに  しまって、ときどきはかきまわしています。骨にさ
  わって、話しかけるの」

★「死んだら土に還るっていうでしょう。
 あの磁器の骨壷じゃ、土のなかには入るけど、土には還りませんよ。
 沖縄の素焼きの骨壷、あれで土に還りたいものです」

★「土葬で、土饅頭の墓は、時がたつとポコンとへこんで、やがて平らになるんです。そして遺骨も土に還るんですね」

★「宗教家というのは創立者だけでしょうね、純粋なのは……」

★「生臭さ坊主だなんて、悪口のつもりでいう人がいるけれども、
 これは褒めことばなんだな。生臭くない坊主が生臭い人間を救えるか、
 相談相手になれるか」

★「信徒が増えれは組織化します。
 組織化したら、それは信仰じゃなくて経営です。あとは政治家になるん
 でしょうね」 

★「宗教家というのは時代とともに生きることはありません。
 時代からずれているから見えるものがあるのです。
 前後の時代を見つめることができるのが宗教家です」

★「香典返しなんかするんじゃねェぞ、いいから貰っとけよ!」

★「葬式の帰りに、清めといって塩を配るけど、清めというのは神道ですか らね。神仏混淆ってことですね」

★「信ずる者が救われるのが宗教ですから、どんなことになっても、信じて
 さえいればそれ で救われているんです」

★「信ずる者は救われる前に裏切られる」

★☆伊奈かっぺいのジョークであるが、そうかもしれないと思わせるところがよくでき ている。

「自殺する人がいますよね。
 その人たちのおかげで、自殺する人が減っているんですよ」

「このあたりじゃ、首吊って死んだっていいません。
 ヒョータン病で死んだっていいますね」

「首を吊りますとね、全身はダラーンとしますが、勃起するんです。
 だから、男はちょっと、恥ずかしいんですよ」

「死んでもラッパを離しませんでした、という話がありますね。
 若い奴にその話をしたら、死後硬直で片づけられちゃった」

「火葬場で、焼きあげるのは1時間以内でいいんですが、熱いままという
 のは具合が悪い んで、さまさなきゃいけない。それで時間がかかるん
 です」

「頓死(とんし)や急死から崩御(ほうぎょ)まで、いろんな死に方がありますね。永眠、逝去、他界、昇天、入寂(にゅうじゃく)、遷化(せんげ)、薨去(こうきょ)、崩御 ……。ねェ、どうせ死ぬなら私は崩御で……」

★「散る桜 残る桜も 散る桜」
☆平成7年夏、井上ひさしさんの生活者大学で山形の米沢に寄ったのだが、案内された常安寺で、この句が、幕末・維新期の志士雲井龍雄のものと知った。長いあいだ、うまい文句だと思っていたが、斬首を前にした句ということを知って、 感動もひとしお。

★《きんさん・ぎんさんに限りませんが、女性の長寿者には早く未亡人にな
 った方が多いんですね。60歳の妻が90歳の夫の世話をしたら、妻
 が先に倒れます。未亡人は長生きです。女性の長寿のためにも、夫は早
 く始末しましょう(爆笑)。
 いいですか。みなさんの幸福のために憶えて下さい。
①食事の塩分を強くして下さい。
②糖分も同じくです。
③脂肪分もたっぷりいいですね、夫の食事はベタベタ、ギラギラしたもの
 にするんですよ。あなたは食べちゃだめですよ(爆笑)。
④アルコール分も大切です。飲んで帰ってきたら「シメタ!」と思って下
 さい。そして、「外のお酒もおいしいでしょうが、私のお酌でもう一杯」
 (笑)。敵は肝臓です。酒を切らしてはいけません。
⑤寝不足にします。
 夜中に起こして下さい。寝る前に水分をたくさんとっておけば、夜明け
 に目が覚めますから、トイレに行くときに踏んづけるとか(笑)。
⑥趣味があったらとりあげましょう。
 「バブル後の日本に、趣味なんか楽しむ余裕はない!」(笑)
⑦ストレスをためさせる。
 夫の話を聞く必要はありません(笑)。
⑧家族から孤立させましょう。
 出かけるときは、夫は置いていく。家族で楽しんでいるところに夫が帰
 ってきたら、シーン(笑)。
⑨生き甲斐をなくしましょう。
 子どもに向かって、聞こえよがしに、「お父さんがいなくても大丈夫よ
 ネ」(笑)。
⑩生きる自信を失わせましょう。
 「行ってらっしゃい」とか、「お帰りなさい」なんて言わなくていい。
 目があったら言うことはただ一言「顔色が悪い」(爆笑)。
 元気でもかまいません(笑)。「顔色が悪い」「元気がない」、これを
 みんなで言います。これで3ヵ月以内で寝込みます。半年以内に亡くな
 るでしょう(笑)。
 さァ、これであなたも未亡人。
 法事では同情を集めて下さい。笑っちゃいけません(笑)。
 ……客席のなかで怒っている人がいますね。「永さん、あなたは私たちをそんなオンナだと思っているんですか」、そういう視線がグサグサと刺さって……、痛い(笑)。
 怒らないで下さい。いま反省しているんですから(笑)。
 ごめんなさい。みなさんは夫を愛し、夫の長寿を願う立派な妻です。夫を愛し、家族を愛している妻。脱帽します。さっきの話は忘れて下さい。
これからは立派な妻の10項目。これを憶えて帰って下さい。
①塩分を抑える(爆笑)。
②糖分もほどほどにしましょう。
③脂肪分も同じ。
④アルコール分も同じ。
⑤よく寝かせること。
⑥趣味は夫といっしょに。
⑦ストレスがたまらないよう気を配る。
⑧夫を家族の中心に。
⑨生き甲斐を求めて-ボランティアもいいですね。
⑩ちょっといつもと違ったら、すぐに病院へ行って下さい。
 そこまで気をつがえば、夫もがんばります。妻のために、子どものため
 に、家族のために、働いて働いて……。無理が重なって、死にます(大
 爆笑)。いいですね、未亡人になる方法は以上のふたつ。どちらでも好
 きな方法で、一日も早く未亡人になって下さい(笑)。》

★《「出家する」といいますね。なぜ家を出ると書くか。
 昔、家はかならず何かを生産していました。お米をつくる、畑を耕す、
 染めたり織ったり、物を売ったりという仕事。そうすると、家にいれば
 、もっとつくろう、もっと働こう、もっと売ろう、となりますね。それ
 があたりまえです。
 いい意味の欲望。もっと仕事しようという欲望です。
 その欲を捨てる。それが出家です。
 だから、出家したらモノをつくってはいけない。
 モノをつくらないんですから、鉄鉢をもって托鉢して、いただいたお恵
 みだけで食べていかなければいけない。
 いただけなければ、食べちゃいけないんです。
 着るものも同じ。ボロ布をいただいて、それを縫い合わせて着る。
 袈裟というのは、いろいろ縫い合わせてあるでしょう。あれ、本来はい
 ただいたり、落ちてたもの、要らなくなったものでつくらなければいけ
 ないものだったんです。
 出家した人たちは、そこにあるものだけでがまんして、そのかわり、人
 間がどう生きていくべきかを考えていく。それが出家なんです。》

★《僕は東京の浅草で育ちました。近所に「頭」がいたんです。「頭」に町内のいろいろなところから連絡がいく。夫婦げんかがあったりすると、「頭」がとんでいってまとめたり、「うちの子はいま、ちょっとグレてるのよ」なんていうと、「頭」がすぐ意見しちゃう。
 悪いいたずらをしたときなんかは、「頭」は[ちょっとこっちへおいで」って、誰もいないお墓なんかに連れていって、「くやしいよ、あんたはそんな子じゃないんだから,絶対なんかの間違いなんだから」。そんなふうにいわれると、もう「僕が悪かったんだ」ってなっちゃうじゃないですか。
 学校でちょっといいことをして、ほめられたりしますね。そうすると、「頭」は、「坊や、ちょっとおいで」といって、その坊やを連れて町内のあちこちへ行って、「ちょっと聞きなさい。この坊やはこんないいことをしたんだよ」と触れまわってくれるの。それは嬉しいよ。
つまり、叱るときは誰もいないところで、ほめるときは人のいるところで、昔は、自分の子どもだけじゃなく、他人の子どもにもいろいろなことを教える人がいたの。ああいう人はいなくなりましたね。》

★「この掃除の仕方は気にいらねェ。もうちょっと、おれんちの方へ寄れ。もうちょっとこ っちへ来い。おれもおまえんちの方にちょっと寄って掃除する。そうすると、道のまん なかは、おれとおまえが二人で掃除したことになるだろう。その道のまんなかのきれい なところをよそから来た人に歩いてもらおう、とこういうわけだ」
 こういうことって学校じゃ教えないよ。つまり、町ってこういうものなんですよね。
お互いがちょっと相手に寄る。寄りすぎちゃいけない。寄りすぎちゃいけないが、重なっていく部分がどうしても必要なんです。

★《いま東京では、給食のとき、「いただきます」「ごちそうさま」を言わない学校があります。僕はそれを知ってびっくりしました。
なぜしないか。手を合わせて祈るから、宗教行為だというんです。公立学校では特定の宗教行為はしてはいけない。なぜなら憲法違反だからって、すごいですね。
 僕はそこんところがわからない。手を合わせて、「いただきます」「ごちそうさま」っていうのが、なぜいけないのか。
 「いただきます」の本当の意味を知らなければいけません。「あなたの命を私の命にさせていただきます」―肉だろうが、魚だろうが、米だろうが、麦だろうが、あるいはジュースだろうが、野菜だろうが、みんな生きていた命です。その「あなたたちの命を私の命にさせていただきます」の最後の一句、それが「いただきます」なんです。
 それをわれわれは食事の前に言ってきたんですよ。 特定の宗教とは関係ありません。神様、仏様も出てこない。「ごちそうさま」だってそうです。 漢字で、「御馳走様」と書きますね。「馳」も「走」も「はしる」です。 つまり、とりに行ったり、運んだり、つくったりという、「この食事に関わったみなさま、どうもありがとうございました」と言っていることばなんです。ここにも特定の宗教は入っていない。キリスト教の学校で、「こうして食事ができますのは神様のおかげです。アーメン」というのとは、わけが違います。宗教教育は憲法違反だからっていうので、「いただきます」「ごちそうさま」を言わせないというのは、ちょっと違うんじゃないか。おかしいと思うんです。
 もっといいますよ。
 僕は学校教育のなかに、宗教教育がもっと考えられていいはずだと思います。「さあ、みんな、先生はこういう宗教に入っているから、おまえたちも入れ」なんてことをいっているんじゃないですよ。それじゃ、憲法違反です。そうじゃなくて、世界中にどんな宗教があって、どんな哲学があったのか、その根本のところは何なのかをきちんと教えるべきだということなんです。それがいまいちばん問われていることでしょう。
 そういう宗教教育をしなけれはいけないんじゃないか、という提案が学校側や先生側からされなければいけないんです。憲法違反にならない宗教教育というものをぜひ、学校教育の現場で考えてほしい、そう思っています。》

★出版されてすぐ、「これは売れます」と断言したのが、小沢昭一さんと山藤章二さん。二人ともラジオを知っている人です。
山藤さんは「軽い」「文字が少ない」、それで「おもしろい」という三点で売れると予言。小沢さんは、自分の言いたいことを他人が言っているように書いているから、無責任に何でも書ける、そこがずるいけれどうまい、という言い方でした。評論家のなかには、他人の揮が並べてあるだけで著者が見えてこない、という言い方をしている人がいました。