20世紀を生き抜くための「心」・「技」・「体」その30

はじめに
「体」本川達雄著「ゾウの時間ネズミの時間」(1992.8.25初版:中公新書680円+税)より
「技」本郷尚講演テ-プ「新設法案 定期借家権の仕組みとその影響」より

「はじめに」

★ お久しぶりです。決算業務や雑用に追われてメモをつくる時間がなかなか取れず、ご迷惑をおかけしました。これからも情報発信を続けたいと思いますのでお読みいただければ幸いです。政府は先月29日の閣議で、来年度から特殊法人トップの給与を所轄省庁の事務次官の給与以下に引き下げることにしたそうです。これは官僚の天下り先になっている特殊法人の役員給与が高いとの批判を受け、小渕首相が内閣発足直後の閣議で見直しを指示していたものだそうです。官僚トップの事務次官(この上に大臣がいる)の月給は1,335千円であるため、1,663千円の日本開発銀行総裁や1,546千円の日本道路公団総裁の月給は同額までカットされることになるそうです(平10・9・29中日新聞夕刊)。トップが下がれば他の役員も下がることになるし、批判の多い退職金も引き下げざるを得ないでしょう。もっといえば、特殊法人が出資した会社(このような会社は仕事の大半を国が税金を使って行なう事業にたずさわっています)や国から補助金をもらっている社団法人や財団法人などのトップの月給にも同じルールを当てはめるべきではないでしょうか。「給料はこちらで決めること、余計なお世話だ」という反論が返って来そうですが、予算が認められれば好き勝手に使ってよいと思われては困ります。その人たちに高い給料を払うために補助金(税金)を出しているわけではありません。民間企業といっても特殊法人が出資した子会社は税金の使途として会計検査院の検査対象になっているそうですから(会計検査院法22、23条)トップの給料に歯止めをかけてしまうべきです。それがいやなら補助金を辞退してもらう、給料に不満があるのなら実力で稼げるところへ転職してもらってけっこう、財政赤字で借金まるけの日本に高級取りは要りません。国民は本人の意思にかかわりなく、納税義務を負っています(国に貢献しています)。税金を使うことにたずさわる人間も(本人の意思でなっているのだから)もう少し奉仕するという気持ちがあってもいいのではないかと思います。経済学者のラビ・バトラ氏は最高賃金は最低賃金の10倍を限度とすべきであると主張しています(世界大恐慌p194:総合法令)。公務員の最低賃金も最高額の10分の1ぐらいになっています(もっとも初任給は最低賃金より少し上のところで支給されています)。給料格差10倍というのは労働の分配割合として妥当であると私は考えます。むろん歩合給におけるトップセールスマンとビリとの差はそれ以上になることもあるし、高額納税者名艦を見ると所得格差は10倍どころではないという現実に直面します。しかし、仕事の能力格差が10倍以上も違うとは思えません。仮に10倍以上の格差があったとしてもそれは所得格差というモノサシで表わさなければいけないものなのでしょうか。賃金を生活給という側面から眺めれば9倍の余裕があるわけで不意に備えての蓄えをみたとしてもそれぐらいあったら十分なのではないでしょうか(生活給だからといって10倍も贅沢な生活をしたら他の人から妬(ねた)まれて周りを全て敵にまわしたり、体をこわしたりするのが落ちで良いことなどあまりないと思います・・・・したことがないのでわかりませんが)。生活給ではなく、「将来何が起こるかわからないから残しておきたい」「家族、子孫に残したい」「税金で持っていかれるぐらいならもっと給料をあげて利益を圧縮したい」など他の理由、おもわくがあり、それが賃金格差として表れているように思います。とはいうものの、人それぞれ価値観が違い、経営者が「もう十分だ」と思われるところまでが給料(生活給)で私の価値観を押し付けるつもりなど毛頭ありませんが、税金という国民に負担を強いて集めたお金の使われ方にたずさわる人の給料は10倍格差という歯止めがあってもよいのではないでしょうか。それにしても、政策通といわれ「火だるまになっても」と大ミエをきりながら逆風に押し流され、めぼしい成果をあげられなかった前首相に比べると期待度の低い小渕恵三氏ですが、天下りのうまみを減らしただけでも十分評価に値すると私は思います。

「体」本川達雄著「ゾウの時間ネズミの時間」(1992.8.25初版:中公新書680円+税)

★a.ゾウのようにサイズの大きいものはゆったりと動き、ネズミのようにサイズの小さいものはちょこまかと動き回る。すなわち、生物のサイズによって時間が違うと考えられる。たとえば心臓がドキン、ドキンと打つ時間間隔はサイズの小さいものほど早い。そこで体のサイズと心臓の鼓動の時間との関係をいろいろの人が調べてきた。

★b.からだのサイズを測るのに体長は都合が悪い。しっぽは計測に入れるのか、頭はどこから測るのかなど統一をはかるのが難しい。それより体重の方が秤(はかり)に乗せるだけだから測りやすい。

★c.そうやって哺乳類の体重(サイズ)と時間(心拍数)の関係を調べてみると、時間は体重の4分の1乗に比例することがわかってきた。4分の1乗は平方根の平方根で、体重が16倍になると時間は2倍になる。つまり体重1キログラムの動物の1分間あたりの心拍数は、体重16キログラムの動物の心拍数の2倍になっている。またサイズの大きいものほど生まれてから死ぬまでの時間が長くかかり、小さいものほど短かくなる。

★d.この4分の1乗則は時間がかかわっているいろいろな現象にあてはまる。寿命をはじめ、おとなのサイズに成長するまでの時間、性的に成熟するのに要する時間、赤ん坊が母親の胎内に留まっている時間、日常の活動の時間(例えば息をする時間間隔、心臓の鼓動間隔、腸が蠕(ぜん)動する時間、血液が体内を一巡する時間、蛋白質が合成されてから壊されるまでの時間等々)など、すべてこの4分の1乗則に従う。

★e.動物のいろいろな時間がサイズの違いにより4分の1乗則が成り立つということは動物のいろいろな時間の間に一定の法則があるということになる。例えば息を吸って吐く間に心臓は4回ドキンドキンと打つこれは哺乳類ならサイズに関係なく皆同じである。今度は、寿命を心臓の鼓動時間で割ってみる。そうすると、哺乳類ではどの動物でも一生の間に心臓は20億回打つという計算になる。寿命を呼吸する時間で割れば一生の間に約5億回、息をスーハー繰り返す。これも哺乳類なら体のサイズによらず、ほぼ同じ値になる(なお、鳥類は約3億回だそうである)。

★f.我々がふつう時間というのは地球の自転から割り出したものであるが、それで測ればゾウはネズミよりずっと長生きである。ネズミは数年しか生きないがゾウは100年近い寿命をもつ。しかし、もし心臓の拍動を時計として考えるならば、ゾウもネズミもまったく同じ長さだけ生きて死ぬことになる。小さい動物では体内で起こるすべての現象のテンポが早いのだから、物理的な寿命が短いといったって一生を生き切った感覚はゾウもネズミも変わらないのではないか。(以上、第一章 動物のサイズと時間 より)

★g.サイズが大きいほど体積あたりの表面積が小さくなるので体の表面を通しての環境の変化を受けにくくなる。例えば体温はサイズが大きいほど恒温性を保ちやすい。筋肉の収縮という化学反応は温度の高いほうが速度が早い。獲物を捕まえるといった運動をするには温度が一定に保たれているほうが有利であり、サイズが大きいほどそれに費やすエネルギ-が少なくてすむ。また、サイズの大きいものほど乾燥にも強い。さらに体重あたりのエネルギ-消費量はサイズの大きいものほど少ないのでより長期間の飢餓に耐えられることになる。大きいものは歩く速度も、歩き回れる範囲も大きいので良い環境を求めて移動できるから環境の変化に対処する能力が高いことになる。

★h.gの観点からみれば大きいことはいいことで、世の中にはサイズの大きい動物しかいなくなってしまうように思えるが、現実はそうではない。小さいものもちゃんと生きている。大きいほうが捕食者に食われにくいのは確かである(ライオンも自分より3倍以上大きい草食獣には歯が立たない)。しかし小さいものだって、そもそもの個体数が多いし、小回りがきいて物陰にかくれやすいという利点もあるから、ある程度の数は生き残っていける。環境の変化に弱いのは確かであるが小さいものほど変異が起こりやすい。一世代あたりの時間が短く、個体数も多いので新しいものが突然変異で生まれでる確立が高い。たまたまうまく適応したものを残してあとは淘汰されてしまう可能性もある。大きいものは個体数が少なく、一世代の時間も長いから、大きな環境の変化に出会うと新しい変異種を生み出せずに絶滅してしまう。一方、小さいものは、どんどん食べられ、ばたばた死んでいくが、次々と変異種を生みだし「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」という流儀で後継者を残していく。一匹の必要とする食物の絶対量は少ないのだから、たとえ干ばつのときでも草一本でも残っていれば生き残れる。小さいものは個体としての生存する確率は小さいかもしれないが、種全体としてみれば大きいものに比べて極端に悪いわけでもない。体温調節も恒温性がベストとは言いきれない。サイズが小さければ暖まるのも早いから必要なときだけ恒温にするという省エネが可能である。クマは冬眠中も体温を下げられないが、ヤマネなどサイズの小さいものは冬眠中体温を下げて省エネに徹している。

★i.島に住んでいる動物と大陸に住んでいる動物とではサイズに違いがある。島に隔離されたゾウは世代を重ねるうちにどんどん小型化して成獣になっても仔牛ほどの大きさになってしまった。大陸ではマンモスがのし歩いていた時代である。一方島のネズミはサイズが大きくなってネコほどもあるものが出現する。島ではなぜこのようなサイズの変化が起こるのか。ルイ-ズ・ロスは捕食者の観点から考える。1匹の肉食獣を養っていくには約100匹の草食獣が必要である。もし島が狭くて草の量が10匹の草食獣しか養えないとすると肉食獣は餌不足で生きていけないが、草食獣は生きていけることになる。つまり島に捕食者がいなくなってしまうわけである。ゾウは体を大きく保つことで捕食者に食べられにくくし、ネズミは小さくて物陰に隠れやすいことで捕食者から身を守っていたと考えられる。ゾウは跳んだりはねたりせず動くときも一歩一歩慎重に足を運ぶ。そうしないと足を骨折するおそれがあるからで、ゾウを解剖してみるとかなりの頻度で骨折の痕が見つかるという。ゾウも骨折の危険のある大きさより「普通のサイズ」に戻りたいだろう。ネズミもそうだ。だから捕食者という制約がなくなるとゾウは小さくなり、ネズミは大きくなって、哺乳類として無理のないサイズに戻っていく。これが「島の法則」の一つの解釈である。

★j.本川氏はアメリカで暮らしたとき「島の法則」を実感した。学問の研究テ-マのスケ-ルが大きい。学者のレベルも高く独りでよくここまでできるものだと恐れ入るばかりの偉人がいた、という。ところが大学の一歩外に出ると、ス-パ-のレジにしても車の修理工にしてもあきれるほど対応がのろく不適切。これでよく給料がもらえるもんだ、といらいらするとともに一般の日本人の有能さに気づかされた。島国という環境ではエリ-トのサイズは小さくなり、ずば抜けた巨人と呼び得る人物は出にくい。しかし逆に小さい方、つまり庶民のスケ-ルは大きくなり、知的レベルは極めて高くなる。大陸に住んでいればとてつもないことを考えたり、常識はずれのことをやることも可能である。まわりから白い目で見られたら、よそに逃げていけばいいのだから。その結果大陸ではとんでもない大思想が育つ。島ではとてもそんな事はできない。これは偉大なこととして畏敬したい。しかし、これはゾウのようなものではないのか?人間が幸福を感じる思考の範囲を超える巨大なサイズになってはいないだろうか?動物に無理のないサイズがあるように思想にも人類に似合いのサイズがあるのではないだろうか。(以上、第二章 サイズと進化 より)もし一生の間にする呼吸が5億回と決まっているとすれば、ゆったりとした呼吸をしたほうが長生き(=長息)できることになります。体に負担のかかる無理な運動をしたり、感情的になって心拍数を上げると20億回が他の人より早く来ることになります。5億回とか20億回といっても数えられる数字ではないから、気にしても仕方ありませんが、ゆっくりとした呼吸を心がけると気持ちが落ち着き心拍数も下がってきます。日常の心がけとして気がついたらゆったりとした腹式呼吸を心がける、そんな毎日を過ごされてはいかがでしょうか。
また、動物のサイズの話は事業規模に話を置き換えて考えてみてはいかがでしょう。ゾウのように大きい方が強い、大きいことはいいことだと思いがちですが、骨折しやすい、という外観の大きさに圧倒されて見落としがちな弱点を持っています。上場企業は赤字決算が続いたら株価が落ちて上場廃止、事業存続ができなくなってしまいます。中小零細企業ではオ-ナ-が私財をつぎ込んで支えるので再び浮かび上がるチャンスがあります。会社を大きくすることより強い会社を作れ、という意見を耳にしましたがそのとおりだと思います。

「技」本郷尚講演テ-プ「新設法案 定期借家権の仕組みとその影響」より

★a.定期借家権の新設に関する法案が今臨時国会に上程、成立する見込みである。実施は成立から1年以内ということになっているが、来年1月からに早まる可能性がある(そうしないと最需要期に間に合わない)

★b.目的は優良な賃貸住宅の供給の促進。今でも住宅が余っているのに、と思われるかもしれないが日本の賃貸住宅は50㎡以下の「ちんけな」住宅が多すぎる。日本では賃貸住宅は持ち家より小さいものでなければいけない、という信念にも似た考え方が支配的である。しかし、欧米では80㎡以上の賃貸住宅が大半で50㎡以下はほとんどない。

★c.この法案の特色は契約自由、契約どおり履行されることである。期間制限なし。1年以内、例えば3ヶ月の賃貸契約も20年以上の賃貸契約も双方が合意すれば自由である。契約どおりの履行であるから中途退去は認めない。これまでの借家契約のように借主の中途退去がペナルティなしに自由にできたのとまったく違う。また、これまでは契約期間が来ても借主に継続の意志があれば応ぜざるをえず、退去してもらおうと思えば立退き料を負担する必要があった。月10万円の家賃を3年間もらって立退き料を500万支払ったなどという笑い話のような話も現実に多くあった。

★d.オーナーのメリットとして(1).立ち退き問題がなくなった。(2).不良テナントを排除できる。(3).家賃の改定がしやすい。(4).収益力が確保できる。(5).取り壊し、大修繕、売却が計画的にできる。(6).相続対策のための土地利用ができるなどが考えられる。

★e.契約は公正証書等の書面で行なうことになっており、従前の借家契約には影響を及ぼさない。ただし、双方が従前のものを合意解約して新規に結ぶのは自由であるとしている。

★f.子供が成人するまでの20年間だけ大きい家に住むとか、不要となった2世代住宅を丸ごと貸して自分たちはもっと小さくて機能的な住宅に移るとか、別荘の定期借家を考えるとか、契約自由・契約どおり履行という定期借家権を足がかりに住宅業界にニュービジネスが起きてほしいものである。